『サシとアジアと海世界−環境を守る知恵とシステム』

サシとアジアと海世界―環境を守る知恵とシステム

サシとアジアと海世界―環境を守る知恵とシステム


島や珊瑚礁の海という限られた環境では、無理をすれば資源はすぐに枯渇してしまう。
だから、東南アジア海域世界には、資源を根絶やしにしないためのさまざまな知恵が生きている。
p.10

“サシ”は東南アジア海域に広く見られる伝統的資源管理の知恵であり禁漁(猟)制度のことである。
“サシ”には“休む”、“休漁する”という意味がある。
イリアン・ジャヤには“ティヤイティキ”という“サシ”に類する制度があり、“オンドワフィ”というカリスマ的存在の長が指導して行なわれる。
(※“オンドワフィ”はカジャンの“アッマトワ”に相当するものと思われる。)
p.13

経済は拡大するもの、モノが増えれば幸せが増える、という近代の哲学自体を再考する必要がありはしないか。
先端技術・ハイテク・多国籍企業などという言葉を聞くと、自給自足は後退的な響きをもってしまう。
しかし、自然と共存している、今はやりの言葉でいえばサステイナブルな社会の存続を考えると、むしろ島社会の今までのありようこそ最先端ではないか。
p.13

(東南アジア海域には)“ペラ”という慣習がある。“ペラ”とは、村同士で漁業権、狩猟権、樹木、果樹(実)の採取権などを認め合う制度のこと。
時に応じて村同士で祝宴を催す。
“ペラ”関係にある兄弟村は、お互いに非常に重い義務がある。
例えば、ある村の人間が一方の村を訪問した場合、受け入れ側は、彼らを滞在場所、食べ物、飲み物すべてにわたって、もてなさねばならない。
教会やモスク、道路、学校などの建設で共同で仕事をしなければならない。
一方の村が困窮している場合は、労働力の供出、カネや食料の支援にも応じなければならない。
“サシ”は共同体内に機能するのに対して、“ペラ”は村を越えたレベルで成り立つものだ。
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イリアンジャヤのエンティエボ村の人々は、海も陸も、あらゆる生き物も神に属し、神から貸し与えられたものとして大切にすることが責任だ、と考えている。
これが慣習的資源保全制度である“ティヤイティキ”の基礎にある。
p.38

慣習法を司る“オンドワフィ”は、インドネシア政府による村落行政法で定められた村長以上の権限を持つ。
p.39

禁漁を破る者には制裁を加える規定がある。
一回目は、違反者が長老達を招待し、若いヤシのジュースと果肉を混ぜたドブという飲み物をふるまい、長老から説教を受ける。
二回目は、アパないしトアと呼ばれる宝石を罰金として供出。
三回目は、豚を捕獲し、村人全員に食べさせる。
四回目は、弓矢で射られる死刑。
p.40

“ティヤイティキ”は資源保全という側面以上に、共同体とそれを支配している神々とのかかわりの中で生まれ、育てられてきたものではないか。
誕生、婚姻、自然災害、死・・・・・こうした人間の世界のさまざまな大事を心に刻み、あるときは耐え、あるときは喜び、あるときは悲しむ。
それが“ティヤイティキ”という制度に組み込まれているのではないか。
我慢と快楽の工夫のために生まれ、結果として資源保全につながっている、とでもいえるのではないか。
p.42

東インドネシアの島々は、インドネシア政府が進める長期開発計画の重要地域にされている。
今後、森林鉱物資源の開発、移住計画、海洋資源開発、リゾート建設などが急速に進むと考えて間違いない。
日本もODAのターゲットをジャワ島やスラウェシ島から、次第に東インドネシアに向けようとしている。例によって、大規模ダムや道路の建設が中心だ。
p.59

ODAの関与、世界銀行を通じた移住政策への協力、直接投資、資源輸入(魚介類、鉱物、森林資源など)に日本(人)は決して無関係ではない。
たとえば、インドネシアの援助に非常に深くかかわっている世界銀行グループに対する日本の出資比率はアメリカに次いで第二位。
世界銀行の貸出業務の元手の2/3国際資本市場で調達されるが、ここでも日本の都市銀行地方銀行、証券会社、生命保険会社、損保会社などが世銀債を購入するか世銀にローンを貸し付け、かなり大きな資金源となっている。
p.60

インドネシアは日本のODAの最大受取国である。
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アメリカ系のフリーポート社は、先住民族を弾圧し、ひどい環境汚染を招いているとして国際的な批判を受けている企業。現在は、イリアンジャヤで銅の採掘をしている。
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インドネシアの元人口・環境担当大臣のエミル・サリムは、“サシ”の重要性と“サシ”を維持・発展させるよう手助けしてほしいと開発業者に訴えている。
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インドネシアの港は閉鎖的な港と開放的な港の二種類がある。
閉鎖的な港とは、鉄船用・資源積み出し港のこと。
開放的な港とは、木造船・ローカルな民衆交易用の港のことだ。
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