ピニシ船について(遅澤先生電話取材メモ)
愛媛大学の遅澤克也准教授に電話取材。
以下、要点。
外国企業は「タッパン」という木しか狙わない
「タッパン」の和名は不明だが、おそらく「ラワン」のこと。この木は、枝がほとんど生えていなくて加工しやすく、道路工事の型枠に利用されていると遅沢先生は憤る。
スラウェシ島コンジョ地方で木造船づくりが盛んな理由
- ウォーレス線の存在が大きい=つまり、半径10km以内でも、あらゆる植生が入手可能
- 材料、技術、プライドが三位一体となって保持されている
船づくりは新たな生命の誕生
- 進水に際しては、三日がかりで大工と船乗りが一緒になって船を引っ張る。
- 摩擦で枕木から凄まじい音と共に火花が散る。産道を通ってでてくる生命体のよう。
- 進水の前に8人の朗読者が8時間がかりでコーランを読み継ぐ
- 船に米やミルクを捧げる
ピニシ船の用途
貨物船に使われることが最も多い。皮肉なことに木造運搬用が多い。
ピニシ船の定義
帆柱2本に帆が7枚。今はエンジン付きの機帆船が主流。
ピニシ船の製造期間
通常1年以上かかるが、金次第で数ヶ月でできることも。通常は職人2、3人で造るが、金を出せば職人の数を増やせるので工期短縮できる。
2つの流派
タナベル村には二大流派=ハジ・ジャファール系列とハジ・ダーマン系列がある。ハジ・ジャファールは昔気質の職人で規模は小さい。一方のハジ・ダーマンは大規模。大統領ともコネクションを持ち、柔軟で利に聡い。
ジャファールとダーマンはライバル関係にある。
タナベルには日本の大工のような組もあり、師弟関係は「ガンザワ・サーウィ」(親分子分の意)と呼ばれる。
コンジョ人というアイデンティティ
タナベルの人もカジャンの人もブギスというIDよりもコンジョだというIDの方が強い。
コンジョ語=マカッサル語の亜流だとのこと。
カジャンの民
直接の交流はないが、船大工たちから尊崇されている。カジャンとは日本で言えば、伊勢神宮や奈良のような精神的な故郷だという。
1980年代後半にフランス人研究者がカジャンを訪問調査したはずとのこと。