こんな農協はいらない

『WEDGE』2008/09号 p.18-27
農協との決別なしに農業は復興しない 山下一仁(前農林水産省農村振興局長)

減反政策=米価維持政策の失敗

「1961年の農業基本法の目的は、零細な農業規模拡大によるコスト削減により、農家の所得を向上させることだった。しかし、政治的圧力を受けた農政は所得向上のために米価を上げた。零細な兼業農家もわざわざ高いコメを買うよりも自らコメを作るほうを選び、農業から退出しなくなった。結果、農地は企業的農家に集まらず、規模拡大による農業の構造改革は失敗した。平均農家規模は45年かけて0.9haが1.3haになっただけだ。」
「高米価はコメ消費減に拍車をかける一方で生産を刺激し、コメは過剰になった。70年以降、95年の食管制度廃止後も続いている減反や転作による生産調整の面積は、今では100万haと水田全体の4割超に達している。米価維持のため500万トン相当のコメを減産する一方、700万トン超の麦を輸入するという食料自給率向上とは反対の政策が採り続けられている。」
「生産調整は米価維持のカルテルだ。そのうえ、現在1600億円、累計総額7兆円の補助金カルテルに参加した生産者に税金から支払われてきた。」
「農地は減少の一途を辿り、今では摂取カロリーを最大化できるようイモとコメだけ植えて、かろうじて日本人の生命を維持できる470万haが残るのみである。

日本農業復活の方策

「生産調整をやめれば米価は中国からの米輸入価格約1万円を下回る9500円の水準に低下し、国内需要も拡大する。EUが価格を引き下げて直接支払いという補助金で農家に所得保障したように、価格低下分の約8割を農業依存度が高く将来の農業生産の担い手である主業農家に補填すればよい。市長村役場や農協の職員等サラリーマンとしての所得の比重が高く土日しか農業に従事しないパートタイム(兼業)農家に補填する必要はない。
これに必要な額は、生産調整カルテルに参加させるために農家に払っている補助金と同じである。財政的な負担は変わらない上、価格低下で消費者はメリットを受ける。国内の価格が輸入米の価格より下がれば、ミニマム・アクセス米を輸入しなくてもよいので、食料自給率は向上する。」

農協の実態

「全農家を加入させ、資材購入、農産物販売、信用(金融)事業など農業・農村の諸事業を総合的に行なっていた戦時中の統制団体を戦後転換したのがJAである。」
「農協法の組合員一人一票制のもとでは数のうえで圧倒的な兼業農家の声がJA運営に反映されやすいし、少数の主業農家ではなく多数の兼業農家を維持するほうがJAにとって政治的維持につながる。JAと兼業農家は、コメ、米価、政治、脱農家を介して強く結びついた。企業的な農家を育成し農業の規模拡大を図るという構造改革に、JAは農業基本法以来一貫して反対してきた。」
「農業基本法に関わったシュンペーターの高弟、東畑精一東大教授(当時)は『営農に依存して生計を立てる人々の数を相対的に減少して日本の農村問題の経済的解決法がある。政治家の心の中に執拗に存在する農本主義の存在こそが農業をして経済的に国のもととなしえない理由である。」と語った。さらに、この主張に、農林次官、政府税制調査会長を歴任した小倉武一氏は『農本主義は今でも活きている。農民層は、国の本とか言うよりも、農協系党組織の存立の基盤であり、農村議員の選出基盤であるからである」と加えている。」
「主業農家と兼業農家を同じように扱うべきではないというJA組合長も出てきた。主業農家の割合が多い野菜などの比重が高いJAには革新的な組合長もいる。また、数年前には高い資材価格に抗議した元JA幹部が独自の農協を北海道で設立し、韓国から安い肥料を輸入している。2003年には、全国約40の農業法人中小企業等協同組合法に基づく農業の(事業)協同組合(=LLP?)を設立している。」