スローフード運動は日本の農業をどう変えるか?

昨日、今日と二日間にわたってパシフィコ横浜で開催された「スローフードフェア2007」を覗いてみた。
会場が広すぎるせいか濃密な熱気を感じるほどではなかったが、30代前後の男女、家族連れを中心に多くの方々が来場していた。

スローフード運動の発祥はイタリア。
『社会構造のファースト化、ファーストフードの席巻、郷土料理の消滅、人々の食品に対する興味の減退を危惧し、食べ物が何処から来て、どういう味で、私たちの食べ物の選択がどのように世界に影響を与えるのかについて、より多くの人々が気づき、食を通じて自分たちの幸せな未来を共に築いていくことを目的に』(会場で配布されたパンフレットより引用)、1989年に協会が設立された。
今や世界125ヶ国に83000人もの会員がいるそうだ。
日本でも2004年にスローフード・ジャパンが正式に設立された。

味の箱舟」というユニークな活動もあり、会場には選定された商品もいくつか展示・販売されていた。
その一つ、「安家地大根」を支援しているスローフード岩手のブースを訪ねた。
洋風大根のラディッシュのように紫がかった赤色の外見が特徴のこの大根。
大衆に迎合することを拒絶するような強い辛味に、逆に好感を覚えた。
聞けば、この大根は岩手県下閉伊郡岩泉町の安家という山深い集落で伝統的に作られたものだという。
しかし、栽培には非常に手間がかかるため、年々生産者が減っていったそうだ。
というのも、通常、種は種苗会社から買うものだが、この大根の種は種苗会社でも保有していないそうで、農家は種作りから始めなければならないからだという。

味の箱舟」に選定される前は、10軒余りの農家が畑の片隅で細々と育てていたというこの大根も、選定後は栽培農家が60軒ほどに増えたという。
スローフード協会から補助金など直接的な支援があるわけではない。
しかし、消費者からの直接的な応援、さらに広く話題となることで需要が増えたことが刺激になっているという。

現在、日本の食料自給率は約40%。
この厳しい現状を考えれば、スローフード運動など焼け石に水のような現象かもしれない。
しかし、消費者の意識改革、選択の変化、さらに消費者と生産者の距離感の縮小が生産者に与える刺激というのは、考えている以上に大きいのかもしれない。

そう思った理由の一つは、JA横浜が今回のフェアに参加していたことだ。
当初、私はスローフード運動と農協は理念的にも利害的にも対立しているのではないかと考えていた。
しかし、スローフード運動と農協は、どうやら水と油のようなものではなさそうだ。
両者の関係をつなぐ最大の要因は、「地産地消」という合言葉。
横浜農協の営農部長の矢沢氏がシンポジウムで発言していたが、「農業は結局、人と人との繋がり、心の繋がりが基本。」
生産者にとっても、消費者の顔が見えることは大きな刺激になるのだ。
そしてまた、その逆もしかり。

スローフード運動は、日本の農業をどう変えていくのか?
長い目で見ていきたいと思う。