「キューバの至宝」アリシア・アロンソ

 1920年生まれ。現在、89歳。キューバ初のプリマドンナ
 キューバ革命直後、フィデル・カストロが自らアリシアの元に赴き、彼女のバレエ団の支援を申し出たと言われる。一説には、「ゲリラ戦のため山に篭っていたフィデル・カストロが戦闘服姿のままアリシアの元を訪ねた」とも言われるが、「その当時、アリシアはニューヨークで活躍していたのでその話はありえない。そうではなくて、フィデルはニューヨークにいたアリシアキューバに呼び寄せたのだ」との説もある。


 ともかく、革命を勝ち取った直後、フィデルアリシア接触したことは何を意味するのか?神奈川大学の後藤政子教授は、「フィデルキューバ革命に託した思いがそこに表れているのではないか」とみる。つまり、芸術を一部の富裕層や特権階級の占有物から開放し、「貧しい人でも格安で芸術を楽しめるような社会を作りたい。」との思いが込められていたのではないかという。芸術の振興は革命の象徴でもあったのだ。そんなフィデルの思いにアリシアは応え、祖国キューバでバレエ教育に尽力。1955年には、「キューバ国立バレエ団」を設立した。しかし、実際のところアリシアフィデルからの申し出をどんな思いで受け止めたのかについて詳しくは分からない。


 現在、キューバには各州にオペラ座があり、どんな小さな町にもバレエ学校があり、多くの子供たちがバレエを習っている、らしい。娯楽の少ないキューバの子供たちにとって、バレエはポピュラーな習い事の一つなのだともいう。キューバの一般庶民のバレエを見る目も、非常に肥えているらしい。キューバ・バレエの特徴は、衣裳や舞台装置もなんとなくトロピカルな雰囲気を醸し出し、ダンスはアクロバティック。そのテクニックは、世界的にも評価が高いという。


 アリシアは現在、国立バレエ団の運営をしながら、ユネスコ親善大使として有形無形文化財の保護にも尽力しているという*1。「キューバ国立バレエ団」の団員は約200名。アリシアは数年前に緑内障を患い、一線からは退いているようだが国立バレエ団の新作への振付をこなすなど、今なおキューバ・バレエ界を代表する人物として影響力を発揮。2年に1度、ハバナで開催される「バレエ・フェスティバル」に、パリ・オペラ座ボリショイ・バレエ団などを招聘できるのもアリシアの存在があってこそだ。しかし、アリシアが偉大でありすぎる分だけ、アリシア後のキューバ・バレエの行方を危惧する声も。政治の世界において、フィデル後のキューバの行方が不透明なのと同様の状況が芸術の分野にも存在することは、ある意味で革命50周年という大きな節目を迎えた現在のキューバを象徴しているのかもしれない。果たして、アリシアの後を継ぐ者は現れるのだろうか?


《その他、アリシアアロンソに関する参考情報》