『ニュー・エコノミー』

著者は三菱電機アメリカの元会長。
アメリカ市民から熱帯雨林を伐採する“三菱商事”と混同され、非難を浴び続けたことを契機に熱帯雨林の現状を視察。
熱帯雨林がもつ生態系(システム)の見事さ*1に衝撃を受ける。
以来、熱帯雨林型の企業経営を模索し続けると共に、地球環境と共生する持続可能なニューエコノミー=産業エコロジーを提唱。
「フューチャー500」の創立者としても知られる。

『対立ではなく対話することから新たな価値が生まれる』

熱帯雨林保護を目指す代表的な国際NGO「熱帯雨林行動ネットワーク(RAN)」によるボイコット運動に対し、「対立を避け、話し合いによる協調を呼びかけた。いわゆる『戦えないなら、一緒になっちゃえ』(If you cannnot fight,join them.)である。」
以来、三菱電機の会合にRANのリーダーを呼び対話を重ねた。
「すると、百聞は一見にしかず、我々は互いにいくつかの共通点を見い出し、また互いが持っていた共通の意見、思考の傾向などを認識することができ、その後、一回一回の対話がじつに実のある会合になっていったのだった。また、思い切って対話の場を設けたことが、それ以後の私たちの環境対策に多大な影響を与える、ナチュラル・ステップとの出会いになったことは、望外の喜びだった。」
p.44-47

ナチュラル・ステップとは』

1989年、スウェーデンの小児ガン専門医だったカール・H・ロベール博士により設立された非営利団体*2
細胞の専門家でもあるロベール博士は、細胞が生きていくための条件として皆が合意できる基本的原則があるように、環境問題も誰もが合意できる原理に立って対応すべきと考えた。
博士はスウェーデンの著名な科学者50数名*3に手紙を送り、彼の考えるシステム条件が科学的、論理的に正しいかどうか、批判を仰いだ。
粘り強い手紙のやり取りの中で、ロベール博士を中心にスウェーデンの科学者の間で持続可能のシステム条件についてコンセンサスが成立した。
科学者たちのコンセンサスはやがてスウェーデン社会全体のコンセンサスという位置にまで高まっていった。
カール・グスタフスウェーデン国王が公式バックアップを表明、スウェーデンの全家庭と学校に向けて、ナチュラル・ステップのシステム原理を説明する冊子とオーディオテープが合計430万部配布された。
p.156-157

ナチュラル・ステップのシステム原理』

  1. 生物圏の中で、地殻から掘り出した物質の濃度を増やし続けてはならない。
  2. 生物圏の中で、人工的に製造した物質の濃度を増やし続けてはならない。
  3. 自然の生産性や多様性の物理的基盤を破壊し続けてはならない。
  4. 人類の基本的な欲求を満たすための資源の利用は、公平かつ効率的でなければならない。

スウェーデンでは、地方自治体、学校、そして企業でナチュラル・ステップのシステム原理に立脚した環境への取り組みが開始された。
欧州一の家電メーカー、エレクトロラックス社、家具で有名なイケア社、北欧のホテルチェーンのスキャンディック・ホテルズなど、スウェーデンの一流企業がナチュラル・ステップの考え方を経営に取り入れている。
しかし、これらの原理を直ちに満たすように生活や行動を変えることは不可能であり、またナチュラル・ステップもそんな過激なことを求めているのではない。
あくまでナチュラル・ステップであって、ジャンプしろというのではない。
我々の行くべき道をシステム条件で明確にしたら、それを羅針盤として一歩一歩進めばよい、今システム条件を満たしていない活動をどうすれば条件に合致するように変えていけるのか、それをしっかりと考えて進んで行けばよいのである。
羅針盤があるからもはや迷うことはない、それがナチュラル・ステップの強みである。
p.157-158

『システム条件の基礎となっている4つの科学的原理』

これらのシステム条件は、以下の4つの科学的原理から導かれている。

  1. 保存の法則=熱力学の第一法則(物質やエネルギーは創造したり、消滅させたりすることはできない)
  2. エントロピーの法則=熱力学の第二法則(物質やエネルギーは拡散する)
  3. 社会が消費するもの(価値)は物質の品質、すなわちその構造と純度であって、物質そのものではない
  4. 地球上での価値の真の生産者は光合成する植物細胞だけである

p.159

『バイオ・ミミックリー』

アメリカでは「バイオ・ミミックリー(Bio-mimicry)という言葉が注目されつつある。
ミミックリー」とは「模倣」という意味で、バイオ・ミミックリーとは「生物に学ぶ」ということだ。
(中略)
近年太陽電池のデザインはどんどん改良され、変換効率も物によっては20%ぐらいまで上がってきているが、光合成の比率にはほど遠い。
何よりも太陽電池の製造には高温、高圧、化学物質を多用する膨大なプロセスが必要である。また太陽電池のつくり出すエネルギーは蓄積できず、フローの形でしか得られない。
これに対してバクテリアや植物細胞は常温、常圧で、そのうえ有害物質等まったく使わずに太陽の光から容易にエネルギーをつくり出している、それもでんぷんなど蓄積できる形のエネルギーである。
30億年の自然が開発した技術と、高々数百年の人類の技術レベルとはまだまだ雲泥の差がある。
光合成のデザインの秘密は、まだ人類に解明されていないのである。
あわびの殻の裏側は素晴らしい光沢だ。
大変丈夫で傷がつかず、海水の中でもまったく錆びることはない。
あんな物質がつくれたら、自動車等の車体やその塗装といった分野には大変な技術革新となる。
あわびの殻をつくるのに、高温も高圧も必要ない。
あわびの体内の温度と圧力で見事につくり出されている。
熱帯雨林に生息する大型のクモがつくる巣は、大きな昆虫が飛来しても敗れることなくキャッチしてしまう。
この強度は大型ジャンボ・ジェット機を飛んでいるままキャッチしてしまう強度に匹敵するとの研究報告もある。
鉄の何倍も強く、かつ弾力に富むクモの巣の素材は、クモの腹の中で簡単に合成されている。
ムラサキ貝は荒波の中でも岩にくっついて安定している。
みずから接着剤を合成しているのだ。
水の中でも使える接着剤はまだ人間にはつくれない。
こうした生物がつくり出す様々な製品は、最小のエネルギーと資源を使って合成され、用が済めば環境を汚染することもなく、また自然に帰ってゆく。
バイオ・ミミックリーは、こうした生物のデザインの秘密を解明し、生物に学んで新たな持続可能で超効率的な技術を開発しようとする試みである。
(中略)
生命誕生以来40憶年の時間の中で磨き上げられてきたデザインには、産業革命からわずか250年の人類の科学技術とは比較にならないほど深いデザインがあり、それは長い時間を生き残ってきた、十分すぎるほどのフィールドテスト済みのデザインなのである。
生命に学ぶデザインにこそ人類生き残りの鍵があると思う。
p.62-65

『環境を査定するスイス銀行

スイス銀行は、独自に環境指数を設けて、指標を設定し、ファイナンスに活用しているという。
彼らの独自の指標によって企業を評価し、環境優良企業と判定できれば、投資のパッケージとして売り出す。
環境指標とファイナンシャルな指標とが相関関係にあるから、金融商品としてのリターンも高い。
スイス銀行はそのようなデータの積み重ねによって、環境をビジネスに結び付けているという。
p.138

環境ホルモンの脳への影響』

わが国では環境ホルモン物質の影響を生殖面、オスのメス化などの観点からのみ警告しているが、これらの物質は胎児や幼児の発育過程の脳に影響することで、行動異常、感情異常、IQ低下などをもたらすことがわかってきている。
日本の都市は世界の10倍以上もダイオキシン濃度が高いという。
最近の日本の若者の自己規制能力の欠如、軟弱かは果たして単なる時代の反映なのだろうか?
内分泌攪乱物質の影響について早急な研究が望まれる。
p.163

『カーボン・クレジットの起源』

アメリカは1990年にクリーンエア・アクトという大気汚染防止のための法律を大改正し、この中で二酸化硫黄(SO2)排出削減の手法として排出権取り引き制度を導入、大成功した。
全米の発電所にSO2の排出量を割り当て、規定を超えて排出量を削減した発電所には、余った「排出権」を他の発電所等へ売れるようにした。
取引市場ができ上がった。
その結果各発電所は競って排出削減に努め、予期したより早く、より多く削減することに成功した。
こうした成功体験、制度運営の経験が、CO2問題に対しても「排出権取り引き制度」を適用しようという提案のもとになっている。
p.185

『カーボン・クレジットへの違和感』

環境NGOの「ドリーム・チェンジ」はアマゾンの熱帯雨林をナショナル・トラスト運動のような形で入手し、その地域の原住民とパートナーシップ契約することで、彼らに昔ながらの持続可能な生活を継続しつつ森を守るよう委託する。
その熱帯雨林が吸収すると見積もられる二酸化炭素の量を会員に分割して提供するのである。
p.186

*1:熱帯雨林の特質として木内氏は次のような点を指摘する。極端なまでに無駄のないデザイン。完全な自給自足がなされ、廃棄するものが一切ない世界。その時その時の環境で一番最適なものが維持され、流転する生態系・ミニマムの資源で、最大のアウトプットがなされるシステム。何千種、何万種の動植物が無駄なく支え合い循環する、持続可能な社会性 p.25

*2:1999年に日本にも支部が誕生した。
ちなみに、1996年3月に『ナチュラル・ステップ』(日本語版)が出版されている

*3:この50数名の科学者とは誰だったのか?コンセンサスが得られるまでに、どのような異論反論が出たのか?