等身大に歴史を描く!

甘粕正彦 乱心の曠野

甘粕正彦 乱心の曠野


昨日、読了。
小文字で描く文芸=佐野ワールドに、どっぷりと溺れた。

主義者殺し、大日本帝国を象徴する悪の権化というステレオタイプを見事に打ち破り、明治・大正・昭和という時代を生きた一人の日本人の生き様が胸に迫る傑作だ。

甘粕の生き様から何かを学べというわけでもない、二度と戦争のない世界を作ることが戦後を生きる日本人の使命などというお題目を唱えるのでもない。
絶対的な特殊性を備えた個を徹底的に描きぬくことで、人間という生き物が共有する普遍性が浮かび上がってくる・・・。

単なる情報の寄せ集めでは胸を撃たない。
正義を振りかざすだけでは、自己満足に過ぎない。
矛盾、謎、秘密・・・。
世の中は簡単には説明のつかないことに満ち溢れている。
しかし、だからこそ世の中は面白く、豊かで、身を委ねることに癒しさえ覚える。

佐野が描いた甘粕像は、じわじわと私の肉体の一部に刻まれ、歴史を形作っていくに違いない。
こんなノンフィクションをいつか書いてみたい。
そのためにも、覚えておこう。
安易な教訓、類型化に頼ることは、避けるべし!