消える自衛隊員に何が?…外出制限、集団生活、いじめ原因か

 青森県むつ市海上自衛隊艦艇の機関砲誤射があったのは今月5日。同じ日には海上自衛隊の士長(25)が、麻薬特例法違反の疑いで逮捕された。海自隊員らの薬物事件は昨年から相次いで発覚。06年4〜8月までの自衛隊員の自殺者は36人と“過去最多ペース”だ。今、自衛隊員に何が起こっているのか。防衛庁では8月に入り、史上初の大規模な「メンタルヘルスに関するアンケート」を実施中。専門家は「以前よりストレスを発散する場がなくなっている」と指摘する。
 身長体重、服装、所持品、体形、髪形など本人の特徴が記された用紙。顔写真が張られ、中には所有する車の車種、ナンバーや、よく行く外出先を示したものもある。まるで“犯罪者”のような扱いだ。
 本紙が入手した「所在不明隊員の保護について(依頼)」と題された紙は、行方不明になっている自衛隊員の保護を呼びかけており、全国の各駐屯地に配布される。毎年、自衛隊では“失跡”する隊員が後を絶たない。
 ある防衛庁関係者は言う。「毎年、春は3〜5月、夏は7〜9月の人事異動にからみ人間関係の悩みなどで無断欠勤、所在不明になる隊員が多い。特に幹部や陸曹が多く、一部の隊員は鬱(うつ)病になっている可能性があり自殺も考えられるので、全国に“指名手配”となるんです」
 若い隊員のケースでは、集団生活になじめない、外出制限があるため彼女に会えない、先輩のいじめなどが原因で行方不明になるという。発見され保護されても処罰の対象となり、停職または懲戒免職処分となる。
 自殺者の増加も深刻だ。防衛庁によると、自衛隊員の年間自殺者は、01年59人、02年78人、03年75人、04年94人、05年93人と増加の傾向にあり、04年の94人が過去最多。06年も4〜8月間の自殺者は36人で、このペースでいけば年間90人に迫る勢いだ。
 軍事ジャーナリストの神浦元彰氏は自衛隊の問題点をこう指摘する。「1つには階級社会の弊害がある。不平不満があっても“階級の壁”によって抑えつけられてしまう。2つめは閉鎖社会で外部とまったく接触がないこと。身内の恥や苦しみは表に出てこない。警察官や消防隊員は一般の人と生活上付き合いがあるが、それもない」
 昨年から相次いで発覚している海上自衛隊による薬物事件も、隊員の心の“闇”をあらわしている。なぜこうした事件が起こるのか。神浦氏は言う。「海自は1回、航海に出ると1か月間帰ってこない。航海中は娯楽もなく彼女とも会えない。かつて月に1回上陸した際には、みなでソープランドに行くなど、どんちゃん騒ぎをしてストレスを発散してきた。それが今は、行儀良くお利口になってきて、ストレス発散をしづらくなってきているんです」
 防衛庁では8月から今年末にかけて「メンタルヘルスに関するアンケート」と題した大規模なアンケートを全国の駐屯地で実施中だ。防衛庁広報課では「このような大規模なものは初めて。自衛隊員のメンタルヘルスに関する関心、知識の度合いを計るために実施した。近年、自殺が増加していることや薬物事件とは関連はない」としているが…。
スポーツ報知 2006/09/14